コモンズ投信は創業以来、一貫してお客様の長期的な資産形成を実践してきた運用会社。
30個のドットで構成されたコモンズ投信のロゴには、30年というひとつの世代を超えて、親子が手を携え、こどもたちの時代をより良い社会にしていく持続可能な社会を創ろうという想いが詰まっています。
確かな運用パフォーマンスだけでなく、収益の一部を寄付に回すという独自の取り組みも注目されています。
今回、コモンズ投信の代表取締役社長 伊井哲朗さんに取材することができました。
コモンズ投信の伊井社長は、創業以来一貫して社会のためになる”真の長期投資”を追求してきました。その誕生秘話と、伊井社長の信念に迫ります。
当記事を伊井哲朗さんとの出会いと捉え、学びを深めることにご活用ください。
伊井哲朗さん
コモンズ投信株式会社
代表取締役社長兼最高運用責任者
山一證券入社後、主に営業企画部に在籍し営業戦略を担当。その後、メリルリンチ日本証券(現三菱UFJモルガン・スタンレー証券)の設立に参画し約10年在籍。コモンズ投信創業と共に現職。2012年7月から最高運用責任者兼務。同社は、骨太な長期投資家として特色がありコモンズ30ファンドは、アワード受賞多数、新NISAでつみたて投資枠と成長投資枠の両枠で購入ができる数少ない日本株アクティブファンドになる。2024年10月には上場株インパクトファンド「まあるい未来共創ファンド cotocoto」をローンチ。
BSテレビ東京「NIKKEI NEWS NEXT」レギュラーコメンテーターを務めるなどメディア出演多数。2023年6月から投資信託協会理事。
1. コモンズ30ファンド誕生秘話:真の長期投資を実践
本日はコモンズ投信株式会社の伊井社長にお話を伺います。伊井社長、よろしくお願いいたします。
よろしくお願いします。
最初にコモンズ30ファンドの構想こそが、コモンズ投信設立の原点と伺いました。
はい。当社創業メンバーには元野村證券のトップアナリスト佐藤明氏。また、米系運用会社キャピタルでファンドマネージャーとして活躍し、後に日本法人の代表も務めた吉野永之助氏もいます。
現会長の渋澤、佐藤氏、吉野氏、そして私の4名に他の創業メンバーを加え、コモンズ投信を立ち上げました。
はい。そんな中、佐藤氏は当時、アナリストのレポートが、短期売買を繰り返す一部の機関投資家向けに書かれていることに問題意識を持っていました。
それはどうしてでしょうか?
彼らが最も多くの手数料を支払う優良顧客だからです。そのため、アナリストは短期的なリターンを追求するレポートを書かざるを得ない状況がありました。
佐藤氏は本来、企業の分析をしっかり行い、経営者と膝を突き合わせて議論したいと考えていました。なぜなら、多くの経営者は10年、20年先、場合によっては100年先を見据えて経営を行っているからです。
しかし、アナリストが取材に行くと、四半期の数字ばかりを聞く。それでは、経営者も「もう財務担当者とだけ話してくれればいい」となってしまいます。
長期的な視点での経営的なアドバイスや数字の改善提案が重要ですが、短期的な視点だと、良好な関係は築きにくいですよね。
その通りです。
そこで、佐藤氏は、30年という企業の長期的な成長戦略を作り、経営者と真剣にビジネスや企業価値向上について議論したいと考えました。
これがコモンズ投信を一緒に立ち上げる動機となりました。
ありがとうございます。 吉野氏の方はいかがでしょうか?
キャピタル出身の吉野氏は、長期投資の経験は豊富でしたが、日本の個人投資家に長期投資の良さが伝わっていないことを残念に思っていました。
コモンズ投信であれば、長期投資による資産形成の有用性を伝えられると考え、参画を決意しました。
長期投資家が少ないとどのような懸念があるのでしょうか?
長期投資家が日本に少ないということは課題であり、例えばソニーの故・出井氏は、「ソニーはグローバルで戦っており、海外には経営や会社にとって参考になる意見をくれる長期投資家がいる。しかし、日本にはそのような投資家がいないため、グローバル競争で不利になる。」と、国内に長期投資家が育つことの重要性を説いていました。
これは、海外の積極的に経営に意見する株主(アクティビスト)対策や経済安全保障にも通じる考えであり、その重要性を見抜いていたと思います。
なるほどですね。
そこで、30年目線で30社に厳選投資するコモンズ30ファンドを始めたという経緯があります。実際に、10年以上投資を継続している企業は約8割を占めています。
まさに長期投資を体現していますね。
伊井さんは、投資しているファンド内の銘柄を売却する際に直接その企業にお伝えにしに行くというのも聞きました。
そうですね。
長期投資を前提としたファンドなので、そもそもの投資年数が長いという点もあり、事前に企業にその旨を伝え、理由を丁寧に説明します。
もちろん、課題があった時は「こういうところは課題だと思います。」と都度言いに行っています。
まさに、長期投資家としての誇りを感じます。
ありがとうございます。もちろん売ったら終わりというわけではなく、売ってからも取材等のコミュニケーションを取り続けています。
2. ファンドマネージャー伊井哲朗:営業・企画・債券で培った複眼的視点
伊井社長のこれまでのキャリアについてお伺いしたいのですが、特に営業の経験が長いという印象を受けました。
その辺りのご経験は、現在のファンドマネージャーとしての仕事にどのように活かされているのでしょうか?
はい、実は私、好きでこの業界に入ったわけではないんです(笑)。
ただ、入ってからは、山一證券姫路支店に配属になり、自分たちの世代ではかなり営業成績は良かったです。そこでは、簡単に言うと、マーケットをしっかり見て株を選ぶ、そしてお客様に利益を提供したい、ということを徹底していました。
その後、山一證券では約10年近く、営業企画や経営企画といった企画部門に在籍していました。経営に非常に近いところで、営業戦略をずっと担当し、どういう投資がいいのか、毎日アナリストやエコノミストと話しながら戦略を練っていました。
また、経営企画も経験したので、経営において何が重要で、何が失敗を招くのか、といったことも学べました。証券会社にいたこともあり、常にマーケットと接する機会があったのは大きかったですね。
なるほど。その後、メリルリンチ日本証券にも行かれたんですよね?
はい、メリルリンチ日本証券でも金融機関のお客様が多く、債券も扱っていました。実は、株のファンドマネージャーで債券の経験がある人はあまり多くないんです。
株の世界では、経済全体の動き(マクロ)に詳しい人はあまり多くなく、個別の企業分析(ミクロ)は圧倒的に詳しいのですが、経済全体の動き(マクロ)への関心はそれほど高くない。
債券の経験が重要なのでしょうか?
株価は企業の1株あたりの利益(EPS)と市場からの期待を表す指標(PER)を掛け合わせて決まります。
企業の1株あたりの利益(EPS)は企業業績を見る必要がありますが、PERは何かといえば「期待」です。そして、この「期待」の多くは金利で決まります。
金利が下がれば市場からの期待(PER)は上がり、金利が上がれば市場からの期待(PER)は下がる。つまり、企業業績だけを見ていても、株で勝つのは難しいのです。
企業業績とマクロ経済(経済全体の動き)、両方の視点が重要ということですね。
はい。私は営業、企画、そして債券と、両方の経験を積んできました。
本格的にファンドマネージャーになったのは、コモンズ投信に入社してからですが、弊社には、私の父親世代で、日本を代表するようなファンドマネージャーやトップアナリストがいて、彼らと机を並べて仕事ができたことが、今も私の財産となっています。
3. 経営者と”同じ目線”で話せる:伊井社長の強み
証券会社時代の経営に近い立場での経験も、今の仕事に活かされているのでしょうか?
そうですね、経営の仕組み、組織作り、人事制度など、サラリーマンとしては比較的理解できた部分があります。
運用というと、どうしても運用に目が行きがちですが、我々は企業をしっかり見ることを重視しています。
よく、日本の代表的な株価指数(TOPIXなど)に対して超過収益を出すことが上手なファンドマネージャーもいますが、私たちはそうではなく、長期で企業価値を上げる、大きな変化を起こしそうな企業を探し、経営者としっかり話すことを大切にしています。
経営者としっかり話す、というのは具体的にどういうことでしょうか?
例えば、一般のアナリストやファンドマネージャーが、企業の経営者に会って経営について意見交換を行うのは経験値の側面から難しい場合もあるかもしれません。
私は、そうした方々に近い経験をしてきており、企業の経営者と会ってしっかりと経営の話をお互いにできる。これは、私が創業経営者だからということもあると思います。
著名な投資家であるウォーレン・バフェット氏も、自分は投資家だけど企業経営者でもあると言っています。彼がなぜパフォーマンスがいいかというと、経営の視点を持っているからです。
経営者目線で企業を見ることができるのは、伊井社長の強みですね。
そう思っています。
以前、あるアナリストが、ある企業が展開している事業の1つが不調だから売却すべきだと進言したことがありました。一見正論ですが、私からすると「売るって大変だよね」と。
それが祖業だった場合、そこで働く人たちがいる。事業を売却すれば、その人たちをどうするのか、別事業に異動させた場合の人事評価はどうするのか、社内の業績管理の仕組みは?など、考えなければならないことは山積みです。
発言を行う上での責任として、このような背景状況も考慮に入れ対話をする必要があります。
確かに、現場を知らないと、簡単に「売れ」とは言えないですよね。
私も、取材で色々な会社の方とお会いしてきましたが、襟を正したくなるような、ピリッとした空気感がある方とそうでない方がいらっしゃいます。
伊井社長は前者で、初めてお会いした時は、正直緊張しました。でも、それは社長だからだと思いますし、誰に対しても緊張感を持つのは当然のことです。でも、伊井社長には、それ以上の緊張感がありました。
そうですか(笑)
社長さんには、社長さんにしかない空気感があるのだと思います。
経営者目線という点では、伊井社長だからこそ話ができる経営者も多いのではないでしょうか。
嬉しいことに、名前は出せませんが、日本を代表するような経営者の方から、M&Aの件で相談を受けたことがあります。急に電話がかかってきて、「会いたい」と。実際にお会いしていくつか頼み事をされたのですが、この方が私に頼み事を!と驚きました。
また、別の会社から「うちの社長が会いたいと言っている」と連絡があり、弊社オフィスに来ていただいたこともあります。長く社長を務められている中で、今どんな心境か、ワクワクしているのか、それとも辛いのか、と聞きました。そうしたら、「社長になってから、今が2番目に辛い」とおっしゃっていました。普段、そんなことを言う方ではないので、そういう局面だからこそ、私に話をしに来てくださったのかなと思うと、非常に感銘を受けました。
4. コモンズ投信が目指す、経済と社会を豊かにする運用
伊井社長は頼られているのですね。
コモンズ投信さんを見ていると、良い意味で隙がないと感じます。哲学的な一貫性、信念、誠実さがあり、運用パフォーマンスも良好ですが、それだけでなく人間性もある。
そして、社員の方々も、皆さん目がキラキラしていて、働く理由が明確なのだろうと感じます。
私たちは、資産運用業界で本当にクオリティを追求しています。その中で、一つひとつの投資を作品として大事にしており、結果としてお金の良い流れを作りたいと考えています。
頑張っている企業や社会的に良い企業にお金が流れ、リターンも追求する。運用チームには、「とにかくパフォーマンスを出せ」というだけなら、極端な話、ブラック企業に投資すればいい。
でも、私たちはそういうことはしない。良いお金の流れを作り、経済や社会にとっても良い流れを作る、そしてパフォーマンスもトップを目指す。非常にハードルは高いですが、それを追求しています。
その結果として、良い作品が出来上がるのです。
素晴らしいですね。
そういった環境で働ける社員の皆さんは、やる気が出るでしょうね。
そうでないとね。私が反対の立場だったら、やる気が出ません(笑)。
本日は貴重なお話をありがとうございました。
ありがとうございました。
後書き
コモンズ投信、伊井社長の言葉は、投資という行為が持つ本来の意義を改めて考えさせてくれるものでした。運用パフォーマンスも重要ですが、企業の成長を長期的に支え、共に歩むこと。それこそが「真の長期投資」であり、ひいては社会をより良くする力にもなる。
取材を通して、伊井社長の「人」への温かい眼差しを感じました。それは、投資先企業の従業員であり、投資家であり、そしてコモンズ投信で働く社員たち。一人ひとりの「想い」を大切にし、その集合体が社会を動かす大きな力となることを、伊井社長は信じています。
30個のドットで構成されたコモンズ投信のロゴ。そこには、世代を超えて受け継がれる「持続可能な社会」への願いが込められています。それは、単なる理想論ではなく、私たち一人ひとりの行動によって実現可能な未来です。
この取材で得られた気づきが、読者の皆様にとっても、自身の投資行動を見つめ直し、より良い未来を創造する一助となれば幸いです。
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